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「正しい未来」は楽しいか?

2015年1月3日に放映された NHKスペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」 の「第1回 未来はどこまで予測できるのか」を観て考えたことです。

人工知能に決められた「正しい未来」

この番組のキーポイントは『人工知能に決められた「正しい未来」を生きるのは楽しいのか?』ということにあると思います。

人生をすべて人工知能に決められてしまうのは、親に決められた会社に就職するとか、クイズの答えを先に教えられるとかと同じで、達成感は当然低くなるでしょう。

自分の人生を生きている気がしなくなるわけです。

そのため、いずれ人工知能肯定派と否定派の対立が起こりますが、「正しい未来」を拒否することは難しいでしょう。

結果として、人は人工知能を受け入れ、人工知能が予測できない領域に進んでいこうとするでしょう。

人工知能は十分なデータがないと正確な予測ができないので、未知の領域は常に残るはずです。

もしくは、あえて成功確率の低い選択肢を選び、独自の道を進んでいく場合もあるでしょう。

その場合でも、ガイドとしての人工知能は有用で、今後の普及段階からずっとそれが主な使い方になるのだと思います。

人工知能の玉石混交状態

どういうデータを元にして予測するかによって、同じ領域でも様々な人工知能が提供される可能性が大いにあります。

つまり、人工知能の玉石混交状態になっていくということです。

現在のスマホアプリと同様の状態です。

結局、予測に100%完璧はあり得ないので、予測精度の競争が生じます。

どの人工知能を選ぶかに悩むことになりますが、スマホアプリのレビューサイトのように、人工知能を評価したり、監視したりする人工知能がいずれ出てくるでしょう。

人工知能による広告

例えば、ある企業が健康ドリンクの新商品を売り込もうとして、健康管理の人工知能にそのドリンクを優先的に勧めるロジックを入れ込んだり、車のナビの人工知能にそのドリンクの広告が表示されているルートを選択させたりすることが考えられます。

人工知能を提供する企業自体が、そういうサービスを売りにするようになるかもしれません。

あるいは、人工知能が使うデータソースをいじって自社製品を優先させるという事件も起こりそうです。

人工知能が「知的な広告」になる可能性はかなり高そうです。

人間のロボット化

人工知能は必要な情報だけを提供するようになるので、「キュレーションの進化系」あるいは「人生のキュレーション」という側面もあるでしょう。

必要な情報は必要なタイミングで人工知能が提供してくれるので、その時に学べばいいということになり、人は非常に限定された知識しか持たないということになります。

最悪では、人間の知能はひどく衰えて、ロボットのように人工知能の言うがままに行動するようになるかもしれません。

それも、自分がロボットのように行動しているとは気づかないのです。

例えば、

仕事をしている時に人工知能から適宜アドバイスをもらって進めるが、大事なポイントは自分で考えて仕事を完了した。

実は、人工知能はその人にどういう情報を与えたらどう考えるかを予測していて、その人はそのとおりに動いただけだった。

あるいは、

料理の時に、人工知能から言われた食材を用意して料理を始めたが、途中で違う調味料を使うことを思い付き、料理がよりおいしくなった。

実は、人工知能はこの食材を提案すれば、この人がこの調味料を使いたくなることを予測していて、食材もそれに合わせて選んでいた。

つまり、「人工知能が暗黙的に人間をコントロールする」ということです。

SFだと「人間が人工知能の奴隷になって嫌々働かされる」というような未来が描かれたりしますが、「みんなが楽しくて充実した人生を送っているが、実は裏で人工知能がすべてをコントロールしていた」ということの方が起こりそうです。

より悪い例だと、広告のところで書いたように「特定の商品を購入するように導く」とか、「特定の政党に投票するように導く」といったことが考えられます。

現代も、テレビで取り上げられただけで物が爆発的に売れたりするので、多くの人が「弱いロボット状態」にあると言えますが、それがもっと深刻になります。

解決策は、やはり人工知能なのではないかと思います。

人工知能が誰にどんな情報を提供したのかを外部からチェックできるようにし(プライバシーも考慮)、それを他の人工知能に分析させ、偏りがあったら警告する、といったようなものです。

プライバシーマークならぬ「グッドAIマーク」といった認証表示も必要になるでしょう。

ただ、人工知能の振る舞いが全く恣意的なものではなく、単にその人に達成感を与えるためのものだったとして、その人もハッピーだったら、それは悪いものとは言えないでしょう。

また、人工知能の予測は100%完璧ではないので、その人自身による決定もあったと言えます。

ですから、人工知能に暗黙的にコントロールされていても、それは「良いコントロール」ということなんだと思います。

そして、いずれは「あっさり成功する」ということに満足できなくなり、人工知能が予測できない領域を追求していくようになるのだと思います。

その過程で多くの知識が必要になり、人間は今よりもずっと賢くなる、というのがベストですが、少し楽観的すぎるでしょうか。

そして、願わくば、そういったことも含んだ「すべてが人工知能の手のひらの上」ということだけは避けたいものです。